客室のバスルームに木曽ヒノキの浴槽を入れたのは、開業準備の最後の段階だった。予算的には厳しかったが、橘 誠一郎「ここだけは変えない」と決めていた。

木曽ヒノキとは

木曽ヒノキは、長野県木曽郡を中心に産出されるヒノキで、江戸時代から建材として珍重されてきた。成長が遅く、年輪が細かいため、材が緻密で香りが強い。浴槽に使うと、入浴中にヒノキの揮発成分が湯に溶け出す。この香りは、合成香料では再現できない。

浴槽を作った職人

Golden Thorn Passの浴槽は、木曽郡木祖村の木工職人、伊藤木工所に依頼した。2010年の秋、橘 誠一郎直接訪ねて、8台分の浴槽を注文した。伊藤木工所は当時、浴槽の製作を年間10台程度に限定していた。「急がなければ作れる」と言われ、完成まで8か月かかった。

使い続けることで変わること

ヒノキの浴槽は、使い続けると色が変わる。最初の白木の色から、徐々に飴色になっていく。この変化は、木材に含まれるタンニンが酸化することで起きる。15年経った今、最初に設置した浴槽は深い飴色になっている。香りは最初より落ち着いたが、まだ十分に感じられる。

日常のメンテナンス

木製浴槽の維持には、毎日の手入れが必要だ。使用後は水気を拭き取り、乾燥させる。月に一度、専用のオイルを薄く塗る。カビが生えやすい継ぎ目は、定期的に確認する。手間はかかるが、適切に管理すれば20年以上使える。Golden Thorn Passでは、清掃スタッフが毎日この手順を守っている。

ヒノキの浴槽に入ることは、特別な体験ではなく、日常の延長にある。ただ、少し丁寧に作られた日常だ。